不変の輝きを放つ「金」の先物取引~ 初心者のためのデリバティブ取引ことはじめ
商品先物取引のうち、「原油先物」と並んで多くの投資家に取引されているのが「金先物」です。「金先物」は、「シカゴ・マーカンタイル(CME)取引所」グループ傘下の「ニューヨーク商品取引所(COMEX)」で取引される「NY金先物」が有名で、世界の金先物の指標となっています。
国内の「金先物」は「大阪取引所(OSE)」(2020年7月27日に「東京商品取引所(TOCOM)」から移管)で、日中は午前8時45分~午後3時15分まで、夜間は午後4時30分~翌日の午前6時まで取引することができます。また金先物の場合、取引が期限となる限月は2カ月ごと、偶数月に設定される6限月制となっており、取引期間は最長で1年になります。
先物ですから「買い」だけでなく、相場が下落すると予想されるときには「売り」から取引を始めることもできますが、受渡決済期日(偶数月の月末近辺)から起算して4営業日前にあたる納会日(取引最終日)までに反対売買して決済しないと「最終決済価格」により自動決済されます。
決済方法は、買った価格と売った価格の差額分を受け渡しする「差金決済」だけでなく、商品の現物の受け渡しを行って決済する「受渡決済」も選択することができます。
価格は1グラムあたり何円で表記されており、倍率は1000倍の1キログラムを1枚として取引されます。7月31日時点における価格は1グラムあたり6600円台で取引されており、1枚購入すると660万円(6600円×1000倍)程度のポジションを持つことになります。
「差金決済」を行う場合は、証拠金(2020年7月31日時点)の23万4000円程度があれば取引することができます。レバレッジは28倍程度と商品先物取引の中では高めと言えるでしょう。
ただし、日本証券クリアリング機構(JSCC)の「証拠金の見直し」や「日々の値洗い」により、ポジションや預けている証拠金次第では、追加で証拠金を差し入れなくてはならない「追証」になるリスクには注意が必要です。
金先物の概要 | |
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原資産 | 純度99.99%以上の金地金 |
取引所 | 大阪取引所(OSE)※ |
取引時間 | 日中:午前8時45分~午後3時15分 夜間:午後4時30分~翌日の午前6時 |
呼値 | 1グラム |
取引単位 | 1キログラム(1枚) |
倍率 | 1000倍 |
取引最終日 | 各限月の受渡決済期日から起算して4営業日前にあたる納会日まで(日中立会まで) |
決済方法 | 差金決済・受渡決済 |
証拠金(7月27日~7月31日時点) | 23万4000円(JSCC) |
価格(7月31日時点、2021年6月限) | 6632円 |
取引金額(価格×倍率) | 663万2000円 |
レバレッジ(取引金額/証拠金) | 28.3倍 |
仮に「金先物」の原資産となる金地金価格が現在1グラムあたり6000円で取引されていたとします。今後値上がりが予想されるので、1年後に6000円で買うことができる「金先物」を1枚購入することにしました。
もし、1年後の満期日に金地金価格が6600円に値上がりしていた場合、60万円の利益{=(6600円-6000円)×1枚×1000倍}になります。逆に5400円に値下がりしていた場合はマイナス60万円の損失{=(5400円-6000円)×1枚×1000倍}になります。
なお、「金先物」の10分の1の100グラムを1枚とする「金ミニ先物」という銘柄があり、より少ない資金で投資を行うことができます。ただし、「受渡決済」は選択できず、「差金決済」のみとなる点には注意が必要です。
採掘した金鉱石を精製して作られるのが「金地金」(インゴット)です。日本では法律で純度が1000分の995以上のものと定められていますが、実際にはより高純度の1000分の999.9の金地金が流通しています。
金は腐食したり変質することがなく、熱伝導性や導電性など優れた特性を持つことから、宝飾品にとどまらず、医療や電子工業など幅広い分野で使われている貴金属です。しかし、需要の高さにもかかわらず、これまで人類が採掘・精製した金の総量は約18万トンしかありません。年間2000万トン以上生産される銅と比べると、生産量の差は圧倒的です。加えて、今後に採掘可能な金は約5万1000トンとも推定されているなど、非常に希少性の高い商品と言えます。
また、金は他の商品と異なり、世界の中央銀行が外貨準備の一部として大量に購入し保有しています。近年では中国などの新興国を中心に購入量を増やしています。金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、世界の中央銀行が保有する金は、総量の約6分の1にあたる約3万4800トンと試算されています。需要面では、中国とインドの両国で世界の総需要の約半分を占めており、両国の政治、経済動向などが金の価格形成に大きな影響を与えています。
金は「モノ」と「通貨」の性質を併せ持っていることに特徴があります。「モノ」という面では、金は希少性が高く、酸化せず腐食しないという特質を持つため「価値が目減りしない安全資産」としての強みがあります。このため、景気後退への懸念が高まると他の金融資産から金への逃避的な動きが強まり、金価格は上昇する傾向にあります。また、物価が上がる「インフレーション(インフレ)」のときに強い資産としても注目され、インフレ時には金価格が上昇する傾向が見られます。
「通貨」という面では、金は昔から「通貨そのもの」として利用されてきた歴史があります。他の法定通貨と違い、金利がつかないのが弱点になりますが、世界の中央銀行が低金利政策を続ける中では金の相対的な魅力が高まります。また、金にはそのもの自体に価値があるため、他の法定通貨と違い、たとえ国が破綻したとしても価値がゼロになってしまうことはありません。
そのため、戦争やテロといった「有事」により地政学的リスクが高まる局面や、リーマン・ショックのような経済危機の際には、投資資金が他の法定通貨から金にシフトすることから、「有事の金」とも呼ばれています。
このように、金は株式や債券といった金融資産とは異なる値動きをする傾向があるため、金をポートフォリオに組み入れることで金融資産のリスク分散が期待できます。
区分 | 材料 | 金価格への影響 |
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経済 | 世界的な景気拡大 | ↓ |
世界的な景気後退 | ↑ | |
物価 | インフレ | ↑ |
デフレ | ↓ | |
金利 | 中央銀行による金融緩和(金利低下) | ↑ |
中央銀行による金融引き締め(金利上昇) | ↓ | |
その他 | 基軸通貨ドルの信認低下 | ↑ |
地政学的リスク(テロ、地域紛争) | ↑ |
また、前回の原油先物の解説でもご紹介しましたが、先物取引になかなか踏み込むことができないと悩まれている投資家は、金についても「ETF(上場投資信託)で腕試し」という方法が選択できます。
「金ETF」は国内の株式市場で個別株と同じように手軽に取引でき、かつ金へ直接投資するのと同じ効果があります。日本国内に上場している「金ETF」は、純金上場信託(現物国内保管型) <1540> [東証E]、SPDRゴールド・シェア <1326> [東証E]、金価格連動型上場投資信託 <1328> [東証E]などがあります。
「金先物」に投資するには最低でも証拠金の23万4000円程度が必要(7月27日~7月31日時点)ですが、「金ETF」は6000円程度の少額から投資が可能です(2020年7月末時点)。個別株の売買と同様に、購入価格との差額がそのまま損益になります。
少額から投資できるといってもレバレッジを効かせた証拠金取引ではありませんので、投資した金額を超える損失が発生することはありません。
また、金先物には取引の期限がありますが、ETFには取引の期限がない(ただし信用取引には期限のある取引もあります)ため、中長期の保有も可能です。もちろん、信用取引を活用することでレバレッジを効かせることも可能です。最低委託保証金30万円を差し入れることによって、90万円程度のポジションを持つこともできます。
金先物取引 | 金ETF | |||
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商品名 | 金標準先物 | 金ミニ先物 | 純金上場信託<1540> | |
原資産 | 純度99.99%以上の金地金 | 国内の金先物価格から 評価した金地金の現在の理論価格 |
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取引所 | 大阪取引所(OSE)※ | 東京証券取引所(TSE) | ||
取引時間 | 日中:午前8時45分~午後3時15分 夜間:午後4時30分~翌日の午前6時 |
午前9時~午前11時30分 午後0時30分~午後3時 |
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取引最終日 | 受渡日から起算して4営業日 前にあたる日 (日中立会まで) |
同一限月の金標準先物の取引 最終日の前営業日 (日中立会まで) |
なし(現物/一般信用) 6カ月(制度信用) |
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取引単位・倍率 | 1枚・1000倍 | 1枚・100倍 | 1口・1倍 | |
最低購入金額 | 663万2000円程度 | 66万3200円程度 | 6640円程度 | |
証拠金(7月27日~31日時点) 保証金 |
23万4000円(JSCC) | 2万3400円(JSCC) | なし(現物) 30万円(信用取引) |
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レバレッジ | 28.3倍 | 現物1倍 信用取引3.3倍 |
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取引口座 | 先物・オプション口座 商品先物取引口座 |
証券総合口座 | ||
税金 | 税率 | 20.315% | ||
所得の種類 | 雑所得 | 譲渡益課税 | ||
課税方式 | 申告分離課税 |
「金先物」の一つで、投資初心者を中心に注目を集めているのが、2015年5月に誕生した金限日先物(きんげんじつさきもの)であり、通称を「ゴールドスポット」と言います。TOCOMに上場していたときは「東京ゴールドスポット100」と呼ばれていました。
倍率は100倍の100グラムを1枚としており、「金ミニ先物」と同様に「金先物」の10分の1の金額で手軽に売買できます。証拠金も9分の1程度の2万5800円程度(7月27日~7月31日時点)であり、25.6倍程度の高いレバレッジで取引することができます。決済方法は原則、差金決済が前提ですが、立会外取引制度(EFP取引)を利用すれば金地金を購入・売却することも可能です。
「金ミニ先物」との大きな違いは、先物取引に特有の取引期限がないことです。そのため、当限の取引最終日までに当限のポジションを翌限以降のポジションに乗り換える「ロールオーバー」を気にすることなく、長期を前提とした投資も可能です。
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