商品先物取引の代名詞でもある「原油先物」~ 初心者のためのデリバティブ取引ことはじめ
商品先物取引のうち、最も取引の多い商品の一つが「原油先物」です。原油は経済活動が活発になれば需要も増加するため、世界の景気変動の影響を受けやすい商品と言えます。
原油の先物商品には比重や硫黄分によって多くの種類があり、主な価格の指標として、北米の「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油」、欧州の「北海ブレント原油」、アジアの「中東産ドバイ原油」があります。
中でもニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上場している「WTI原油先物」は取引量、市場参加者ともに圧倒的に多く、流動性や価格決定における透明性が高いため、原油価格の主要指標のひとつにもなっています。日々のニュースなどで耳にする原油価格の多くは「WTI原油先物」のことを指しています。
なお、日本では原油はほぼ100%を輸入に頼っており、8割以上を中東産原油が占めます。そのため、「東京商品取引所(TOCOM)」では、ドバイ原油先物「プラッツドバイ原油先物」を取り扱っています。
「プラッツドバイ原油先物」はTOCOMにおいて、日中は午前8時45分~午後3時15分、夜間は午後4時30分~翌日の午前6時まで取引することができます。満期日は当月限の翌月第1営業日であり、それまでに決済しないと、当該限月のドバイ原油の平均価格で決められる「最終決済価格」により決済されます。
価格は1キロリットルあたり何円で表記されており、50キロリットルを1枚として取引されます。7月22日時点における価格は期先(2020年12月限、帳入値段)1キロリットル2万9540円で取引されており、1枚購入すると147万7000万円(=2万9540円×50倍)程度になります。
ただ、商品先物取引は買った価格と売った価格の差額分を受け渡しする「差金決済」が一般的ですので、変動はするものの証拠金の40万円程度(7月16日~7月22日時点) があれば、取引することができます。しかし、レバレッジは3.6倍程度と商品先物取引の中では「低め」と言えるでしょう。
プラッツドバイ原油先物の概要 | |
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原資産 | 中東産ドバイ原油 |
取引所 | 東京商品取引所(TOCOM) |
取引時間 | 日中:午前8時45分~午後3時15分 夜間:午後4時30分~翌日の午前6時 |
呼値 | 1kl |
取引単位 | 50kl(1枚) |
倍率 | 50倍 |
最終決済価格 | 当該限月のドバイ原油の平均価格 |
最終決済日 | 当月限の翌月第一営業日 |
決済方法 | 差金決済 |
証拠金(7/16~7/22時点) | 40万円(JCCH) |
価格(7/22時点、2020年12月限) | 2万9540円 |
取引金額(価格×倍率) | 147.7万円 |
レバレッジ(取引金額/証拠金) | およそ3.6倍 |
商品先物取引では、満期日まで保有した場合、商品の現物を受け取って決済する「受渡決済」が選択できますが、「プラッツドバイ原油先物」は「差金決済」のみとなります。
例えば「プラッツドバイ原油先物」の原資産となる中東産原油価格が現在1キロリットル4万円で取引されていたとします。今後は値上がりが予想されるので、3カ月後に4万円で買うことができる「プラッツドバイ原油先物」を1枚購入することにしました。
もし、3カ月後の満期日に中東産原油価格が4万1000円に値上がりしていた場合、5万円の利益{(4万1000円-4万円)×1枚×50倍}になります。反対に3万9000円に値下がりしていた場合は-5万円の損失{(3万9000円-4万円)×1枚×50倍}になります。
原油先物市場では、原油の需要と供給の変化を織り込みながら価格が形成されます。需要という面では、世界の経済動向の動きに左右されます。世界的に景気が拡大すると原油の消費も増加するので原油価格は上昇します。
特に中国やインドを中心とした新興国の動向には注意が必要です。1970年代に経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国は原油需要の7割程度を占めていましたが、その後はOECD非加盟である発展途上国の需要が増加。近年はOECD加盟国の消費を上回るようになって、原油価格に大きな影響を与えています。
一方、供給面では、世界の原油生産量のうち約4割を占めている石油輸出国機構(OPEC)の動向に左右されます。加盟国が協調して、生産量や国別生産の上限設定などの需給調整を行うことがあります。
仮に加盟国が協調減産を行って供給量を絞ると、原油価格は上昇しやすくなります。しかし増産を行ったり、減産が不十分だったりすると原油価格が下落することがあります。
世界最大の原油消費国である米国の在庫状況にも影響を受けます。米国エネルギー情報局(EIA)が毎週水曜日に発表する原油在庫量が増加すれば原油価格は下落し、減少すれば価格は上昇する要因になります。
また、米国は世界最大の産油国でもあるため、米国の産油を支えるシェールオイルの動向にも影響を受けます。米エネルギーサービス会社ベーカー・ヒューズが毎週金曜日に発表している米国内石油・天然ガスのリグ(掘削装置)稼働数が、シェールオイルの動向を探る先行指標となっており、リグ稼働数が増加すれば供給増加懸念から原油価格は下落し、減少すれば供給減少期待から上昇する要因になります。
加えて気をつけなくてはならないのが、国際的な政治情勢、地域紛争やテロなどが起きて地政学的リスクが高まったときです。産油国の多くは、歴史的に政治・宗教・民族などの問題を抱える中東諸国、アフリカ、南米などが多く、有事の際には供給不安から原油価格が乱高下することもあります。
そして、原油先物市場の建玉にも原油価格は影響を受けます。取引所が定期的に発表する原油の買い建玉が増加すれば将来の売り要因となり得ることから原油価格は下落し、売り建玉が増加すれば将来の買い戻し要因となり得るため上昇する可能性が考えられます。
区分 | 材料 | 原油価格への影響 |
---|---|---|
需要 | 世界的な景気拡大 | ↑ |
世界的な景気減速 | ↓ | |
米国在庫の増加 | ↓ | |
米国在庫の減少 | ↑ | |
供給 | 石油輸出国機構(OPEC)の増産 | ↓ |
石油輸出国機構(OPEC)の減産 | ↑ | |
米国の掘削リグ数の増加 | ↓ | |
米国の掘削リグ数の減少 | ↑ | |
その他 | 地政学的リスクの激化 | ↑ |
地政学的リスクの沈下 | ↓ | |
原油先物市場の買い建玉増加 | ↓ | |
原油先物市場の売り建玉増加 | ↑ |
原油先物への投資には抵抗があり、なかなか踏み込めないと悩まれる投資家には、「ETF(上場投資信託)」で腕試し、という方法もあります。「原油ETF」は国内の株式市場で個別株と同じように手軽に取引でき、かつ原油先物へ投資するのと似たような効果があります。
日本国内に上場している代表的な「原油ETF」は、WTI原油価格連動型上場投信 <1671> [東証E]、NEXT NOMURA原油インデックス連動型上場投信 <1699> [東証E]、WisdomTree WTI 原油上場投資信託 <1690> [東証E]があります。「プラッツドバイ原油先物」に投資するには最低でも証拠金の40万円程度が必要でしたが、「原油ETF」は1000円以下の少額から投資が可能です。
原油ETFでは個別株の売買と同様に、購入価格との差額がそのまま損益になります。少額から投資できるといってもレバレッジを効かせた証拠金取引ではないので、投資した金額を超える損失が発生することはありません。
また、レバレッジを効かせた「ETN(上場投資証券または指標連動証券)」もあります。NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油ダブル・ブル ETN <2038> [東証N]は、変動率が日経・JPX石油指数(2020年6月〜2021年5月の構成比率はガソリン21.18%、灯油7.30%、原油71.52%)の前日比騰落率の2倍になるように計算された指数に連動することで、レバレッジ2倍と似たような効果があります。
そのほかNEXT NOTES 日経・TOCOM 原油ベア ETN <2039> [東証N]のように、騰落率が日経・JPX石油指数の前日比騰落率のマイナス1倍になるように計算された指数に連動することで、原油先物売りと似たような効果があるETNもあります。
これらETFやETNは信用取引を活用することもでき、最低委託保証金30万円を差し入れることによって、90万円程度のポジションを持つこともできます。また、原油先物は各限月ごとに取引期限が決まっていますが、ETFには取引の期限がない(ただし信用取引には期限のある取引もあります)ため、中長期の保有も可能です。
原油先物 | 原油ETF | ||
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商品名 | プラッツドバイ原油先物 | WTI原油価格連動型上場投信<1671> | |
原資産 | 中東産ドバイ原油 | WTI原油 | |
取引時間 | 日中:午前8時45分~午後3時15分 夜間:午後4時30分~翌日の午前6時 |
午前9時~午前11時30分 午後0時30分~午後3時 |
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最終決済日 | 当限月の翌月第一営業日 | なし(現物/一般信用) 6カ月(制度信用) |
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取引単位 | 1枚 | 1口 | |
最低購入金額 | 147.7万円程度 | 887円程度 | |
証拠金(7/16~7/22時点) 保証金 |
40万円(JSCC) | なし(現物) 30万円(信用取引※) |
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レバレッジ | およそ3.6倍 | 現物1倍 信用取引およそ3.3倍 |
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取引口座 | 先物・オプション口座 商品先物取引口座 |
証券総合口座 | |
税金 | 税率 | 20.315% | |
所得の種類 | 雑所得 | 譲渡益課税 | |
課税方式 | 申告分離課税 |
コロナショックの影響によりWTI原油先物(2020年5月物)が4月20日に1バレル=マイナス37.63ドルと、史上初のマイナスの取引価格となりました。なぜこんな事態が起きたのでしょうか。謎を紐解いていくと、商品先物特有の決済方法に問題がありそうです。
商品先物取引の決済は、売値と買値の差額をやりとりする「差金決済」が主流です。しかしWTI原油先物では、先物を買っていた場合、決済日までに反対売買しないと現物の原油を受け取ることになるのです。
マイナス価格に落ち込んだ5月物は、翌日の4月21日に決済日を控えていました。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で原油の需要が激減して在庫がだぶつき、製油所なども貯蔵施設の手当てが難しい状況となっていたのです。
そのため貯蔵施設を持たないファンド筋が、お金を支払ってでも誰かに買い取ってもらわざるを得なくなったことがマイナス価格のからくりでした。
もっとも、国内に上場する「プラッツドバイ原油先物」で「受渡決済」は行われず、「差金決済」のみとなりますので、マイナス価格にはなりにくい構造となっています。
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