株価指数オプションの仕組みを理解しよう~ 初心者のためのデリバティブ取引ことはじめ
株式市場の全体の値動きを示す株価指数を原資産とするオプションのことを「株価指数オプション」と言います。商品先物などと違い、指数が原資産となるため現物の受け渡しではなく、買いと売りの取引代金との差額による「差金決済」が行われます。
国内で取引されている株価指数オプションには、日本取引所グループ(JPX)の子会社で、デリバティブ取引を扱う大阪取引所(旧大阪証券取引所)に上場している「日経225オプション」や「日経225 Weeklyオプション」、「TOPIX(東証株価指数)オプション」などがあります。
日本で最も活発に取引されているのが、日経平均株価を原資産とする「日経225オプション」です。JPXマーケット・ハイライトによると、2019年の日経225オプション取引高(Weeklyオプション含む)は3046万枚と前年比-15.6%となり、2013年の5726万枚をピークに減少傾向にあります。一方、TOPIXを原資産する「TOPIXオプション」は取引量が少なく、現状では個人投資家が取引することは難しくなっています。
オプションには、満期までの期間中にいつでも権利行使ができる「アメリカンタイプ」と、満期日にしか権利行使できない「ヨーロピアンタイプ」があります。日経225オプションは後者の「ヨーロピアンタイプ」となり、決済方法は満期日まで持ち越すか、満期日前日の取引最終日までに反対売買することになります。
日経225オプションの満期日は、毎月第2金曜日(休業日の場合はその前日)となり、満期日の日経平均株価を構成する225銘柄の始値をもとに算出される「SQ(特別清算指数)値」で決済されます。満期日まで持ち越した場合、買い手の権利は自動で行使され、損失となる場合は権利を放棄することができます。売り手は買い手の権利行使に応じる義務があります。
日経225オプションは取引単位が1単位(1枚)となり、最低取引単位は1枚からです。1枚はプレミアムを1000倍した金額です。例えば、プレミアムが500円の時、1枚売買すると、500円×1000倍×1枚=50万円が約定金額になります。プレミアムは数十円や数円で取引されることも多く、少ない資金で売買を行うことができます。
また、取引時間は日中が午前9時~午後3時15分、ナイトセッションが午後4時30分~翌日午前5時30分までとなっており、会社勤めのサラリーマンでも取引しやすい環境にあるといえます。
税制については課税方式が「申告分離課税」の「雑所得」となり、日経225先物やFX(店頭外国為替証拠金取引)、商品先物取引などの売買損益と通算することができます。税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)となり、確定申告が必要になります。
なお、損失が生じた場合は確定申告をすれば、翌年以後3年にわたり、先物取引に係る雑所得などの金額から繰越控除することができます。ただし、この場合は取引がなくても毎年、確定申告を行う必要があることには注意が必要です。
オプションの売り手は、買い戻しやSQによる決済などで清算する際に損失が大きく膨らむ可能性がありますので、そのリスクをカバーするための証拠金が求められます。日経225オプションにおける証拠金も同様で、売り手のみに必要となり、買い手に証拠金は必要ありません。証拠金は「SPAN証拠金額-ネットオプション価値(Net Option Value)の総額」により計算されます。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が開発した方法で計算される「SPAN証拠金」は原則、毎週見直され、各証券会社が係数を掛けて算出しています。国内の証券会社は概ね係数を1倍としていることが多いようです。
「ネットオプション価値」は「買いオプション価値の総額」から「売りオプション価値の総額」を差し引いた額となり、買いオプションを増やすとネットオプション価値が上がり、証拠金が下がる仕組みになっています。オプション取引の場合、複数のオプションを保有して合成ポジションを作る場合も散見されますので、差し引き額でリスクを算出します。
例えば、現時点のSPAN証拠金が105万円で、A証券会社のSPAN証拠金額の掛け目が1倍だったとします。この時、権利行使価格2万3000円のコールオプションをプレミアム300円で新規で1枚売りました。当日の清算価格(日中取引終了後の値洗い時)が200円だった場合(ケース1)、必要な証拠金は下記のように計算されます。
SPAN証拠金105万円×SPAN証拠金額の掛け目1倍-{買いオプション価値の総額(0円)-売りオプション価値の総額(清算価格200円×1000倍×1枚)}=125万円
125万円-プレミアム(300円×1000倍×1枚)=必要証拠金95万円
このようにSPAN証拠金と掛け目、ネットオプション価値により算出された必要証拠金125万円から、プレミアムとして受け取った30万円を受入証拠金として差し引いた95万円が、不足分として必要な証拠金になります。
しかし、日経225オプションは価格変動が大きい商品です。日中立会終了後の値洗い処理が行われ、清算価格が200円→400円になった場合(ケース2)、同じポジションを保有していたとしたら、どうでしょうか。
SPAN証拠金105万円×SPAN証拠金額の掛け目1倍-{買いオプション価値の総額(0円)-売りオプション価値の総額(清算価格400円×1000倍×1枚)}=145万円
145万円-プレミアム(300円×1000倍×1枚)=必要証拠金115万円
ケース1に比べてケース2の場合は、必要証拠金が95万円→115万円に大きく増えた上に、評価損益も10万円の含み益→10万円の含み損を抱えた状態になります。資金に余裕がない場合には、追加で保証金を差し入れなくてはならない「追証」となる可能性があることには注意が必要です。
オプション取引には、①コールの買い、②コールの売り、③プットの買い、④プットの売りの4つの取引方法があると前回に解説しました。今回はケーススタディーを通じて、それぞれの取引の収益特性を見ていきましょう。
日経平均株価が損益分岐点の2万1300円を超えてくると利益になり、さらに上昇すれば利益が膨らみます。満期日にSQ値が2万2000円だった場合、2万1000円で買える権利がありますので(決済売値2万2000円-権利行使買値2万1000円-プレミアム300円)×1000倍×1枚=70万円の利益になります。
ところが、損益分岐点の2万1300円を下回り、満期日にSQ値が2万円だった場合はどうでしょうか。この場合は権利を放棄することになるので、日経平均株価がいくら下がろうとも、損失はプレミアムの300円×1000倍×1枚=-30万円に限定されます。損益図を見ても分かると思いますが、掛け捨て保険に近いものがあります。
日経平均株価が2万円の時、権利行使価格2万1000円のコールオプションをプレミアム300円で1枚売ったとします。損益分岐点は権利行使価格2万1000円+プレミアム300円=2万1300円となります。
日経平均株価が損益分岐点2万1300円を下回るとプレミアムの300×1000倍×1枚=30万円が利益になります。受け取るプレミアムは決まっていますので、日経平均株価がいくら下がろうとも、利益の上限は一定です。
ところが、損益分岐点の2万1300円を上回り、満期日にSQ値が2万2000円となった場合、買い方が2万1000円で買える権利を行使しますので、2万1000円の売りが自動的に権利割り当てされ、(権利割当売値2万1000円-決済買値2万2000円+プレミアム300円)×1000倍×1枚=-70万円の損失になります。
もしも満期日にSQ値が2万3000円にまで上昇すると、(権利割当売値2万1000円-決済買値2万3000円+プレミアム300円)×1000倍×1枚=-170万円の損失になります。このように利益は上限が決まっているにもかかわらず、損失は日経平均株価の上昇に連動して上限なく大きくなる可能性があることには注意が必要です。
日経平均株価が2万円の時、権利行使価格1万9000円のプットオプションをプレミアム300円で1枚買ったとします。損益分岐点は権利行使価格1万9000円-プレミアム300円=1万8700円となります。
日経平均株価が損益分岐点の1万8700円を下回ってくると利益になり、さらに下落すれば利益は膨らみます。満期日にSQ値が1万8000円だった場合、1万9000円で売れる権利がありますので、(権利行使売値1万9000円-決済買値1万8000円-プレミアム300円)×1000倍×1枚=70万円の利益になります。
ところが、損益分岐点の1万8700円を上回り、満期日にSQ値が2万1000円だった場合はどうでしょうか。この場合は権利を放棄することになるので、日経平均株価がいくら上がろうとも、損失はプレミアム300円×1000倍×1枚=-30万円に限定されます。損益図を見ても分かると思いますが、コールの買いと同じく掛け捨て保険に近いものがあります。
日経平均株価が2万円の時、権利行使価格1万9000円のプットオプションをプレミアム300円で1枚売ったとします。損益分岐点は権利行使価格1万9000円-プレミアム300円=1万8700円となります。
日経平均株価が損益分岐点の1万8700円を上回るとプレミアム300円×1000倍×1枚=30万円が利益になります。しかし、受け取るプレミアムは決まっていますので、日経平均株価がいくら上がろうとも、利益の上限は一定となります。
ところが、損益分岐点の1万8700円を下回り、満期日にSQ値が1万8000円となった場合、買い方が1万9000円で売れる権利を行使するので、1万9000円の買いが自動的に権利割り当てされ、(決済売値1万8000円-権利割当買値1万9000円+プレミアム300円)×1000倍×1枚=-70万円の損失になります。
もしも満期日に1万7000円まで下落すると、(決済売値1万7000円-権利割当買値1万9000円+プレミアム300円)×1000倍×1枚=-170万円の損失になります。このように利益は上限が決まっているにもかかわらず、損失は日経平均株価の下落に連動して上限なく大きくなる可能性があることには注意が必要です。
日経225オプションのプットの買いは、日経平均株価が上昇しても損失が限定的である一方、日経平均株価が下落すればするほど利益が大きくなると解説しました。特に下落局面の場合、原資産価格のボラティリティ(価格変動率)の急激な上昇を伴うことが多く、プットオプションの場合、原資産価格の下落による「本質的価値」の上昇だけでなく、「時間的価値」の急拡大によるプレミアムの値上がりが見込めます。
もちろん残存期間が長くなることで「時間的価値」が大きくなるわけでなく、原資産価格のボラティリィティが大きくなることで、原資産の将来の価格が不確実性を増して「時間的価値」が大きくなるのです。この点は前回にも触れたとおりです。
直近では新型コロナウイルスによるショック安で、日経平均株価が20年2月21日の終値2万3386円から3月19日には一時1万6358円まで約30%も下落したのは記憶に新しいと思われます。この時、20年6月限の権利行使価格2万円のプットオプションのプレミアムは、2月21日の終値155円から3月19日には3830円と短期間で24.7倍に上昇しました。
仮に1枚(15.5万円)保有していたとしたら(3830円-155円)×1枚×1000倍=367.5万円の利益を得ていたことが分かります。このようにプットオプションの特性を利用することで、日経平均株価の急落に備えたヘッジ(保険的な役割を果たすこと)ができます。
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